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vol.2 対称的なカップルたち

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『近松心中物語』は二組のカップルの、タイトル通り心中をめぐる物語だ。
作者の秋元松代は、近松門左衛門作『冥途の飛脚(めいどのひきゃく)』から忠兵衛(堤真一)と梅川(宮沢りえ)を、同じく近松作品のレアもの『緋縮緬卯月の紅葉(ひぢりめんうづきのもみじ)』と続編『卯月の潤色(うづきのいろあげ)』から与兵衛(池田成志)とお亀(小池栄子)をそれぞれ取り上げ、“ザ・シリアス”な忠兵衛&梅川組に対して、どうにもコミカルな与兵衛&お亀組という、まったく異なる魅力を持つカップル二組として鮮やかに描き出した。


一瞬の炎を燃やし尽くす

まずは悲劇の王道をまっしぐらに突き進む忠兵衛と梅川を見てみよう。
そもそも商売一途で廓遊びなんぞ一切しない、カタブツの忠兵衛である。が、こういう真面目な男に限って、一度恋に落ちてしまうと周りがまったく見えなくなり、遊びと本気の区別もつかなくなるから危険きわまりない。言ってみればサラリーマンが夜の商売の女の子に本気で惚れてしまい、店をやめさせるために会社の金に手をつけてしまった……的な話なのだが、「金」の重みが現代とはまるで違う。いくら愛しい女のためとはいえ、御用金に手をつけたとあっては重罪は免れまい。

忠兵衛にはちょっと短気なところもあって、カーッと頭に血が昇ると「えぇ~い、もうどうにでもなりやがれ」とばかりに普段は絶対しないような大胆な行動に出て(それがいわゆる「封印切り」、つまり商売用の金の封を切って梅川を身請けする金にしてしまう)、後戻りができなくなってしまうのだ。

梅川は「売りもの買いもの」の遊女の身として、これまでさんざん辛酸をなめ尽くしてきたに違いない。男たちの欲望のはけ口として金で買われる「モノ」扱いしかされなかった自分を、初めて人間として、女として扱い、向き合ってくれたのが忠兵衛であった。「商売相手」にはあるまじき恋に落ちる条件は、十分に揃っていたと言えるだろう。

しかも二人して思いつめるタイプなために、とりあえずほとぼりがさめるのを待つとか、名を変え姿を変えてどこか遠い地で生き延びるとか、柔軟でしたたかな考え方ができないと来ている。オールオアナッシング、「生きるか、死ぬか」しか選択肢がないと思い込んでいることの悲劇なのだが、だからこそこの二人の疾走感は尋常ではなく、「もう、そうすることにしたんだからそうするのだ!」という有無を言わさぬ意思のもと、究極の目的に向かって怒濤のごとく突き進む。瞬間に燃え上がる炎は、たとえその業火で自らの身を焼き尽くすとわかっていても、異様なまでに美しい。


その気もないのに夫婦心中?

一方の与兵衛とお亀。こちらは正真正銘の夫婦なのだが、与兵衛は大店の入り婿であり、姑(もともとは伯母なのだが)に頭が上がらない。好きでお亀と一緒になったわけではなく、当然ながら足はフラフラときれいどころがいる色街へと向かい、嫁と姑から隠れて日がな入り浸り状態だ。

ところがこんなダメ男にも関わらずどこかしら女を惹き付かずにおかない魅力があるもので、お亀は旦那が好きで好きで好きでたまらない。こんなに奥さんに恋い焦がれられたら男冥利だろうに、本人はありがた迷惑くらいにしか思っていないのがまた憎たらしい。

そんなわけで女に関してはのらりくらりといい加減にもほどがあるこの与兵衛、意外にも男の友情には厚いところがある。だからこそ親友の忠兵衛から女のために金を貸してくれと頼まれれば、店の棚をこじ開けてでも貸してやるのだ。与兵衛が店の金に手をつけたことから、この夫婦もまた追い詰められていくのだが、その道行はどうにも危なっかしい。

当時の流行りだった心中に無邪気に憧れるお亀、死ぬ気なんてこれっぽっちもないのに行きがかり上やむなく心中に同意する与兵衛。その結末はぜひ実際の舞台で確認してもらいたいが、夫婦の胸の内のかみ合わなさ、与兵衛のどうしようもない人間くささが、この芝居の中で笑いのアクセントとなり、忠兵衛&梅川のシリアス一直線と好対象をなしている。


それぞれのカップルの行く末にどっぷり浸るもよし、笑っちゃいながら共感するもよし。いずれにせよ、原作の設定を利用しつつごくシンプルに二組を対比させて描いた秋元松代の筆の冴えに、唸ること間違いなしだ。


文:市川安紀

vol.1 伝説はアップデートされる
vol.2 対照的なカップルたち

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